
企業向けの運転教育と交通事故防止教育を手がける会社です。ドライブレコーダーの数値から「いま教育すべき人」をAIで抽出し、その一方で、人の運転を診断する仕事だけは人が担い続ける。使う場所と使わない場所を、はっきり分けています。
株式会社ドライブクリニックaは、福岡市中央区天神に拠点を置き、企業向けの運転教育と交通事故防止教育を手がけている。代表の平石章氏がひとりで立ち上げた会社だ。講師として現場に立つのも、平石氏自身である。生成AIは業務のなかで活用しているが、使う領域と使わない領域の線引きは、はっきりと定めている。
生成AIを使い始めたきっかけ
平石氏が生成AIに触れたきっかけは、個人的な興味だった。ChatGPTが登場した頃のことである。当時勤めていた企業研修の会社に、導入の動きはなかった。
業務に本格的に取り入れたのは、自身の会社を設立してからのことで、きっかけはSEO対策のブログ執筆だった。
運転教育の分野では「自動車学校」という言葉が検索の世界で根強く、「運転教育」といったキーワードで自社のページを上位に出そうとすれば、それなりの投資が必要になる。設立して間もない会社に、そこまでの余力はなかった。
かといって、更新を止めるわけにはいかない。更新の止まったページは、検索の世界では存在していないのとほとんど変わらず、問い合わせの入口そのものを失うことになる。人力で回し続けることも難しく、早い段階から記事の作成と更新をAIに任せる形を選んだ。
積み重ねは、思わぬかたちで返ってきた。
「Googleの検索とかではヒットしないんだけど、AIに聞いたらうちが出てくる」と平石氏は語る。検索結果の上位に並ぶことはなくても、生成AIに運転教育について尋ねれば、自社の名前が挙がるのだ。多額の広告費を投じる企業と同じ土俵に立たなくても、届く道はある。
使う前は、どうしていたか
前職の企業研修会社では、AIに触れる機会そのものがなかった。独立後も、状況はすぐには変わらない。
SEOに費用を投じるという選択肢はあったが、会社の規模を考えると現実的ではなく、記事さえ書けばよいという単純な話でもない。必要な施策をすべて行おうとすれば、費用は際限なく膨らんでいく。それでも、発信は止められなかった。
限られた資源のなかで、どう回していくか。その問いが、生成AIを取り入れる出発点になった。

いま、どう使っているか
現在、同社が生成AIを活用している領域は大きく二つある。
ひとつは、導入のきっかけにもなったSEO対策のブログ執筆で、提供事業者と契約し、記事の作成と更新をAIで回している。もうひとつが、運転教育を専門とする同社ならではの使い方だ。運転者の「ふるい分け」である。
企業の規模が大きくなるほど、保有する車両の台数は増えていく。そうした企業の多くはテレマティクスと呼ばれる技術を導入しており、車がどこを走り、どのような挙動をしているかを通信で管理している。全職員の運転が、数値として蓄積されていく。
しかしその数値が、ほとんど見られていない。
メーカー側は帳票としてサービスに組み込んでいるものの、受け取ったユーザーがそれを見て何かに生かしている例は多くないと、平石氏は指摘する。一方で、1台あたり数千円の通信費はかかり続ける。それに車両台数を掛ければ、月々のランニングコストは相当な額だ。
かけた費用は、生かさなければ意味がない。
そこで同社が提供しているのが、蓄積された数値から教育の対象者を絞り込むサービスだ。今すぐ教育を受けるべき人と、当面は問題のない人を抽出したうえで、危険度が高いと判断された運転者にだけ教育を実施する。効率がよく、眠っていたデータも生きる。この抽出のロジックを組み立てる過程で、生成AIを使った。

AIに任せないと決めていること
一方で、平石氏がはっきりと線を引いている領域がある。運転診断だ。
ドライブレコーダーの映像をAIが解析して点数を出す技術は、すでに存在している。しかし同社は、それを導入していない。「機械が導き出す人の診断が、あまり整合性が取れていない」というのが、その理由だった。
なぜそのとき、その行動を取ったのか。運転の背景にある心理までは、AIには読み取れない。平石氏はそう考えている。典型的なパターンをいくつ用意しても、そこに当てはまらない運転者が必ずいた。
だから、そこは人が見る。
この判断の背景にあるのは、現場で積み重ねてきた実感だ。「運転操作ができる人のほうが、交通事故は圧倒的に多いので」と平石氏は話す。交通事故を防止する教育と、運転の操作を教える教育は、まったく別次元のものであり、操作が上手いことと事故を起こさないことは同じではない。
線を引いた領域は、もうひとつある。営業だ。
人が話しているように振る舞う自動音声のAIについて、導入を検討し、実際にサンプルを聞いた。「自然っぽいんですよ。だけどその『っぽい』が抜けないんですよね」と、そのときの印象を語る。
言葉に詰まったり、口ごもったりする。そうした要素こそが人間らしさだと平石氏は考えており、機械らしさの残るものを営業の場面で使うことには抵抗があった。「僕も営業の畑にいたので、話をするときは最終的にAIじゃなくて人間でありたい」という思いもある。
スケジュール調整のような業務であれば、自動化してかまわない。だが、交渉や、自社がどういう会社かを訴えかける場面は人が担う。そう判断して、検討そのものをやめた。

これから
これから実現したいことを尋ねると、平石氏は「もう一人、僕を作りたいなって思ってて」と答えた。
構想はこうだ。運転診断の際に取ったメモ書きを渡すと、過去の自分の書き方を学習したAIが、診断書の骨子を書いてくれる。最終的なチェックと確認は自分が行えばよく、それでもゼロから書き起こす手間はなくなる。そうした仕組みを作ってくれるところがあれば、ぜひ投資したいと平石氏は話す。
運転する人を機械には任せず、その代わりに自分の思考を写した「もう一人」へ書類仕事を渡していく。線の引き方は、これからも変わらない。

20代半ばで一度、会社経営を経験(現在とは別事業)。その後、自動車学校の経営企画室の求人に応募した面接の場で、社長から「企業研修を専門にやる法人をグループに作ったので、そちらで働かないか」と誘われる。同法人で理事を務めたのち、2024年に独立して株式会社ドライブクリニックaを設立。子どもの頃から続けているサッカーは今も現役で、月に2〜3回、試合に出ている。


