
1977年に持ち帰り寿司店として創業した回転寿司チェーンです。魚の養殖と、店内を回る寿司のカウント。二つの場面でAIを動かし、どちらも業界で初めての取り組みとなりました。ただし出発点はAIではなく、現場を良くする方法を探し続けた先に、一つの手段としてAIがありました。
くら寿司株式会社は、大阪府堺市に本社を置く回転寿司チェーンだ。1977年に持ち帰り寿司店として堺市で創業し、四大添加物無添加(化学調味料・人工甘味料・合成着色料・人工保存料)を掲げながら全国へ店舗を広げてきた。お客様の健康に貢献したいという思いから四大添加物無添加を掲げるとともに、「その価格で最高の味を実現する」ため、必要な手間は惜しまない一方で、テクノロジーを活用した効率化に努めている。いま魚を育てる養殖と、店内を回る寿司のカウントという二つの場面でAIが動いている。どちらも業界初の取り組みだが、出発点はAIではなかった。
AIを使い始めたきっかけ
「最初からAIありきではありません」。同社の広報担当者は、そう話す。
創業者である田中邦彦社長は、今も経営の第一線にいる。新しい技術を、自社に何か活かせないかと常に考えており、その姿勢は社員にも浸透している。AIが登場する前から、最新の技術を取り入れられないかを探り続けてきた。
土台もあった。機械化とシステム化を業界に先駆けて進め、原価のコントロールや人件費の効率化にも早くから取り組んできたため、新しい仕組みを入れることへの社内の抵抗が少ない。
「常に新しいもので何か工夫できないか。それを考えている企業風土」
探し続けた先に、一つの手段としてAIがあったということになる。
探す目的のほうは、創業以来変わっていない。
「その先にはやっぱり、一番はお客様にご満足いただくことですから。お店にお越しいただいて、幸せな気持ちになって帰っていただく。そこを目指すために取り入れています」
技術は、商品の質と、手の届く値段と、店で過ごす時間の快適さのために選ばれてきた。
使う前は、どうしていたか
養殖の現場では、餌やりのすべてを人が担っていた。生簀を回り、魚が食べ終わるまで餌をやり続ける。一日一回で済むこともあれば、三回に分けることもあり、そのあいだ人は生簀から離れられなかった。
決まった時刻に決まった量を落とすタイマー式の給餌機は、以前からあった。ただし機械が見ているのは時計だけで、その日の魚の腹具合まで見て加減することはできない。
店舗のほうは、従業員の人手をいかに減らせるかが課題だった。例えば、会計時に皿の枚数を数える作業では、各テーブルに備えられた「ビッくらポン」の投入口があり、皿の枚数はここを通った数でカウントしていたものの、従業員の人手による確認作業がどうしても必要で、会計のたびにその手間がかかっていた。
いま、どう使っているか
現在、AIが動いているのは二つの場面である。
ひとつめが、魚の養殖だ。使っているのは、AI搭載の自動給餌機だ。
魚の動きをAIが画像で解析し、空腹かどうかを判断して、自動で餌をやったり止めたりする。腹が減った魚は、水面の近くまで上がってくる。腕のいい生産者は、その動きを見て過不足なく餌をやるのだが、そのノウハウをAIに学習させた。
効果は餌代に表れた。無駄が減り、平均でおよそ一割の削減につながったというデータがある。養殖にかかるコストの七割から八割は餌代が占めるため、経営への影響は小さくない。
しかも餌代は、年々上がっている。世界中で寿司や和食の人気が高まり、魚の需要とともに養殖そのものが増えているため、育てるための餌までが取り合いになっている。
広報担当者は、これを経営の話として説明した。
「餌の量を適正化できる、無駄を減らせるということは、経営的にはメリットが大きいわけです」
働き方も変わった。タンクには三日分の餌を貯めておけるため、生簀へ足を運ぶのは三日に一回で済む。スマートフォンやタブレットがあれば、生簀の様子はリアルタイムの映像で確認でき、遠隔での餌やりも可能だ。餌をやった量も、そのときの魚の様子も、記録と映像がアプリに残っている。

AIで育てた魚を初めて商品として売り出したのは2022年3月で、愛媛県の生産者に給餌機を預けて育ててもらった魚だった。現在、同社が扱う真鯛のおよそ三分の一がAIで養殖したものになった。
魚種も広がり、いまはハマチやサバもAIで養殖している。AIで育てたサバは、期間限定ながら生のまま寿司として提供された。回転寿司で生のサバが回ることはそう多くないが、第二弾、第三弾に向けた養殖も進んでいる。自社の水産子会社、KURAおさかなファームが育てるオーガニックはまちも、一部はAIを使って養殖したものだ。
ふたつめが、店内を回る寿司のカウントだ。同社の店では、入店から退店まで従業員と接することなく食事を終えられる。最後まで人の手が残っていたのが、皿を数える場面だった。
回転レーンの上にAIを搭載したカメラがあり、客が皿を取ったかどうかを画像で認識している。
回る寿司は独自開発の抗菌寿司カバーに入っており、皿を持ち上げると蓋が開く。蓋に触れずに商品を出し入れできる仕組みで、商品が入っているあいだ蓋は閉じたままだ。その開閉を、AIが見ている。カバーの上にはQRコードがあって商品の情報を持つため、どの席の人がどの商品を何皿取ったかまで分かる。

同社の寿司皿は、一種類しかない。色を変えて価格を見分ける方式を取ってこなかったため、皿そのものからは何を食べたか分からない。
寿司の届き方は、二通りある。タッチパネルやスマートフォンから注文したものと、目の前のレーンから取ったものだ。前者は注文の履歴が残り、後者はAIカメラが数える。この二つに、投入口を通った皿の枚数を加えた三つがそろって照合できたとき、会計は自動で成立する。
導入は2020年、全店に入ったのが2021年だった。当初は五年計画だったが、コロナ禍で非接触への対応を迫られ、前倒しになった。
人手への効果がはっきり出ており、ピーク時のフロアスタッフを従来の三分の二にまで減らせている。
ただ、同社はこの仕組みを効率化の話として語らない。
「店舗運営側から見ると効率化なんですけど、お客様側から見ると、お会計のときに待たなくていいということになるわけです」
従業員が枚数を数えに来るのを待つ必要がない。チェックのボタンを押せば、あとは自分のタイミングでレジへ向かえる。
もっとも、この仕組みが要るのは、レーンに寿司を流し続けているからだ。注文だけを受ける店なら、流れる皿を数える必要がそもそもない。大手の回転寿司で、いまも回るレーンに寿司を流しているのは同社だけである。
それでも、レーンをやめる考えはない。
「回転寿司と名乗る以上、お寿司が回っていることが存在意義です。なぜ回転寿司たるのかといえば、お寿司が回っているから。利便性と楽しさだと思いますので」
店に来るからこそ味わえる楽しさを残すために、AIが要る。効率化の話であると同時に、回転寿司であり続けるための仕組みでもあった。
では、効率化して浮いたものは、どこへ行くのか。
「価格の制約とか、うちの場合は四大添加物無添加というお客様との約束がありますので、品質のより高いものをお手頃な価格でご提供するためには効率化は、無視できない部分です」
餌代の一割も、ピーク時のフロアの三分の一も、そのバランスを取るための原資にあたる。
「効率化できた部分を、商品のクオリティ、サービスの質の向上に還元する。それでまたお客様にご満足いただけるように」
餌代を削るのも、フロアの人数を減らすのも、そこへ戻すためだった。
なぜ、内製にこだわるのか
養殖の給餌機は、外部が開発した技術である。一方、店舗の皿カウントは社員が作った。
「システムの開発は基本、内製化しています」
最初はトライアンドエラーの連続だった。導入までの過程には企業秘密にあたる部分もあり、詳細は明かせない。それでも、自分たちの手で運用に乗せた。
機械化でもシステム化でも、まず自分たちでやってみる。それが同社の順序だ。
理由は、現場にある。
「システムだけに明るい人が本部で開発して作り上げたとしても、それが実際に現場に即しているかどうかは、また別問題です」
ICTやAIの専門人材はいる。店舗運営を経験した人材も、同じチームに置いた。新しい仕組みを店の運営に落とし込めるかどうかを見極められるのは、現場を知っている人間だからだ。
まずは自分たちでやってみて、手応えを得てから外に出す。その順序を、崩さない。
これから
養殖でのAI活用には、もうひとつの狙いがある。担い手だ。
漁業の担い手は、この二十年でおよそ半分に減ったといわれる。二十年前は二十四万人ほどいた。このままでは、日本で魚を獲る人も育てる人もいなくなりかねない。
給餌機は、その入口を広げる道具でもある。腕のいい生産者のノウハウをAIが学習しているため、経験の浅い人でも魚を育てられる。生簀に張り付く時間が減れば、生簀を増やすことも、休むことも選べるようになった。
生活が安定し、自分の時間も取れる。そういう働き方を示すことが、担い手を増やすきっかけになるのではないか。実際、委託先の生産者のなかには、息子が後を継ぐために戻ってきた例もあった。
同社が「漁業創生」と呼ぶ枠組みは、2011年ごろから続けてきた取り組みだ。水産子会社を通じて全国の養殖生産者に魚の育成を委託し、育った分は全量を買い取る。生産者は販路のリスクを負わずに、養殖そのものに専念できるかたちだ。
背景には、仕入れの事情もある。回転寿司のネタは海外からの調達が多いが、世界的な魚の人気で買い負けが起き、円安と輸送費、包装資材の値上がりも重なった。安定して仕入れることが、年々難しくなっている。海に囲まれたこの国の魚を、自分たちで育てる理由がそこにある。
「さかな100%プロジェクト」も「魚育プロジェクト」も、そしてAIを使った養殖も、漁業創生の一環にあたる。
広報担当者は、消費者の関心が値段に向くのは当然のことだと言う。そのうえで、こう続けた。
「その当たり前をそのまま未来にも続けていくために、持続可能な形で残していくためには、やれることを今からやっていかないといけない。今は食べられたとしても、今の値段で食べられなくなるかもしれない。そこを防ぎたいんです」
店舗のほうも、向かう先は変わらない。技術は日々進んでいく。研究を続け、店での食事がより快適になるものがあれば取り入れていく。
最初からAIありきではない。その姿勢のまま、次に使えるものを探し続けている。

1977年5月、堺市で創業。実家は田舎の小さな八百屋で、幼い頃から家業を手伝って育つ。祖母から受けた「お客様に申し訳ないと思わんか」という叱責を原点に、「見えないところこそ大事にする」という日本文化の良心を経営の軸に据える。四大添加物無添加を貫き、お寿司を通じて日本の食文化を世界へ伝えることを目指す。





