
東京と大阪に拠点を置くシステム開発会社です。創業のときから「エンジニアに優しい会社」を掲げ、福利厚生を整えてきました。2026年7月、その延長線上にAIを置き、複数の生成AIを使えるチャット環境、個人契約したAIツールへの補助、模擬演習の三つを制度として始めています。
日本ナレッジスペース株式会社は、東京都港区に本社を、大阪市北区西天満に大阪支社を置く情報処理サービスの会社である。2014年の設立から、Web系や組込み系のシステム開発、ネットワークの設計構築を手がけ、東京と大阪の多くのエンジニアが顧客先の現場で働いている。
創業のときから、「働く人の健康はまさに経営によって創造される未来である。」という言葉を掲げてきた。
福利厚生は70種類を超え、毎月の残業時間を自社サイトで公開してきた。
2026年7月、その福利厚生にさらにAIが加わった。
AIを使い始めたきっかけ
最初のきっかけは、現場の変化だった。
同社の主力はSES、つまり顧客先にエンジニアが常駐して開発にあたる事業である。
ここ2、3年で、AIを使った開発案件が少しずつ増えてきた。
ただ、現場によって事情は違う。AIを使いこなす社員がいる一方で、そもそも触れる機会のない現場もある。
「触れる機会がなければ、取り残されてしまう」
IT業界では、この差が開きやすい。会社として何かをしなければならない。そう考えた同社は、まず社員に聞くことから始めた。
2026年6月、現場でどのAIを使っているかを尋ねるアンケートを実施した。
返ってきた答えは、見事にばらばらだった。
多かったのはGitHub Copilot、ChatGPT、Geminiの三つで、次にClaudeが続く。8割がChatGPTといった偏りはなく、使う場面も使い方も人によって違った。
この結果が、制度の設計を決めた。
「会社が一つに決めるというよりは、オールマイティーに使える土台を用意して、使い方は個人に任せる」
会社が一本に絞れば、それしか使えなくなる。柔軟さを失うくらいなら、選ぶ自由を社員に渡す。ここが同社の出発点だった。
使う前は、どうしていたか
AIの環境が何もなかったわけではない。
Google Workspaceを全社に展開していたため、GeminiとNotebookLMは以前から全社員が使える状態にあった。
それでも、使い方は人に委ねられていた。プライベートでChatGPTを使う人もいれば、Claudeで開発を試す人もいる。触っていない人は何から触ればいいのかわからず、すでに使っている人にも、ほかのものを試したかったという声があった。
バックオフィスでは、周知のための資料やメールを一から書いていた。
去年まで、そこにAIはなかった。

いま、どう使っているか
2026年7月、AIに関する福利厚生を3つ、同時に始めた。
一つ目が「ナレフルチャット」である。ChatGPTやClaude、Perplexityといった複数の生成AIモデルを一つの画面で切り替えて使い放題となり、費用は全て会社負担となっている。
「一つのサイト上でいろいろなAIが使えるところが利点です」
無料で、身近に、複数のAIへ触れられる。一つに絞らないという方針の、受け皿になった。
二つ目が「マイAIツール補助制度」だ。社員が個人で契約したAIツールの費用を、年間2万円を上限に会社が補助する。
予算を決める際、月2、3千円のプランなら、2万円で半年分をまかなえる。金銭的な負担を少しでも和らげる制度として、この金額に落ち着いた。
三つ目が「AI活用模擬演習制度」である。土台を用意するだけでは、実践のスキルは身につかない。AIを使った開発に特化したケーススタディを会社が定期的に用意し、社員が取り組む。実務に役に立つAIのスキルが身につく仕組みだ。
これらとは別に、AI関連を含む資格の取得に報奨金を支給する制度もある。
制度の使い方は社内Wikiにまとめ、あわせて周知メールで全社員に定期的に案内している。仕事だけでなくプライベートで使ってもよいと公式に伝え、社長自身が「全然プライベートでもいいよ、みんな使って」と社員に呼びかけているのも特徴だ。
実務の注意点も、随時共有している。たとえば議事録をAIに作らせるとき、同じフォルダに古いバックアップがあるとAIがそちらを参照して誤った集計をしてしまう。だから別のフォルダに移す。社員の声を聞きながら、こうした使いやすい点や注意点をルールに載せていく。
効果は、二つの場所で表れている。
バックオフィスでは、周知資料やメールの作成にAIを使うのが当たり前になった。
「もうAIを使わないというのは考えられない」
現場では、経験の浅い社員が持っていないスキルを求められる場面があり、そこをAIでうまく乗り切れたという報告が上がってくるようになった。
まだ足りないと感じていること
制度は7月に始まったばかりで、大きなトラブルは出ていない。
だが、既に見えてきた課題は、二つある。
一つは補助額で、年間2万円は使い込みたい人には足りない。上位プランを契約する社員ほど、自己負担が残る。
もう一つは温度差である。話には聞くが、あまり使わないという社員はいる。理想は全員が使う状態だが、まだ遠い。
よく使う人と使わない人、それぞれにどう働きかけるか。同社はこれを、次に解決すべき課題だと捉えている。

これから
これからの方向は、二つある。
一つは、模擬演習を育てることだ。問題を定期的に追加することで問題という資産が増えていき、現場で直接使える実践的なスキルがより身に付いていく。
もう一つが、温度差の解消である。福利厚生を入れ、AIの良さを周知してもなお、使わない人はいる。全員に使ってもらうために、次の福利厚生や新しいアプローチを検討している。
その背中を押すのが、社長の言葉だ。
「今後もAIの福利厚生をどんどん入れたいから、アイデアいつでも募集してます!」
学び、使い、評価され、また学ぶ。同社はこの循環を全社で回し、学ぶ組織から創造する組織へ進むことを掲げている。福利厚生に加わった3つのAI制度は、その最初の一歩だ。

メーカーで営業として16年ほど勤務したのち、2014年2月に日本ウェブサービス株式会社へ営業責任者・取締役として入社。同年4月、「エンジニアに優しい会社をつくる」ために日本ナレッジスペース株式会社を設立した。創業以来エンジニアファーストを掲げ、健康経営に取り組む。東京商工会議所の健康経営エキスパートアドバイザー。





